「地域の総合的な移動サービスの確保で出かけたくなるまちづくり」の検討が行われています。その中で、敬老特別乗車証の持続な制度の在り方も議論がなされています。
まず、ここまでに至る議論を辿ってみます。横浜市敬老特別乗車証(敬老パス)制度は、高齢者の社会参加を支援し、高齢者の福祉の増進を図ることを目的とした制度です。高齢者の方々が豊かで充実した生活を送るための支援の一つとして、市内にお住まいの70歳以上の希望される方に交付。利用者の皆様には、事業の運営費用の一部として、その方の収入状況等に応じた負担金をお支払いいただいています。敬老パスの利用できる交通機関は、横浜市内の乗合バス(横浜市営、川崎市営(注)、江ノ電バス、小田急バス、神奈川中央交通、フジエクスプレス、川崎鶴見臨港バス、京浜急行バス、相鉄バス、大新東、東急バス、横浜交通開発)・市営地下鉄[全線](みなとみらい線は不可)・金沢シーサイドライン[全線]です。
この制度は、少子・高齢化の進展により対象となる高齢者が増加していることに伴い、事業費が増加。交通事業者・横浜市ともに負担が増えるなどの課題があります。今後も中長期的な高齢化の進展により、さらなる事業費の増加が見込まれることなどから、持続可能な制度となるよう、見直しが必要とされています。そこで、まず制度のあり方について横浜市社会福祉審議会に諮問したところ、令和元年6月に「横浜市敬老特別乗車証制度のあり方に関する検討専門分科会」が設置され、同年12月までの全6回に渡り、議論していただき、令和2年1月には同専門分科会から答申をいただいています。
その中で、議論を重ねる中で、制度は外出支援を通じて社会参加支援の効果があることが確認されました。高齢者の外出頻度を一定程度担保することは、介護予防や健康維持の点から意義があります。ただし、その場合の外出は、公共交通機関を利用しての外出に限らないことに留意する必要がありますが、外出支援の一環として、持続可能な制度としていくべきことが改めて確認されました。
また、制度の対象者である 70 歳以上の市民は、2041 年(令和 23 年)には約 90 万人へと拡大し、事業費も急増することが見込まれる中で、この制度を持続可能なものとしていくためには、利用者・交通事業者・市(市費)の相互理解と協力が必要です。過度となっている交通事業者の負担については、バス路線維持のためにも早急に対応すべき。一方、利用者負担は過小となっており、この状況下においては、相応の負担を求める必要があります。その上で、市としても一定程度負担をしていくべきだと考えます。 とあります。
続いて、利用者・交通事業者・市(市費)の三者負担の考え方について、現行方式であるフリーパス方式や、他都市で採用されている利用上限設定方式、都度支払い方式に着目し、その特徴や試算結果を基に審議を行いました。しかし、どの方式にもメリットとリスクがあることや、利用実績の把握が必ずしも十分ではないことから、専門分科会として一つの案に絞り込むことは困難であったため、3つの案が併記されています。
(1)応能負担(フリーパス方式)(2)応益負担(①利用上限設定方式・②都度支払い方式) です。3つの方式には、それぞれメリットとリスクがあり、また、利用実績の把握が必ずしも十分ではない中で、専門分科会としては、制度の持つ課題に対応するための方向性を一つにまとめることは困難。そのため、3つの方式を併記することとになりました。しかし、先述のとおり、交通(バス)事業者の負担軽減は最も重要であり、改善することは急務であるということは、委員間でも共通した意見。こうした点にも留意した上で当面の制度設計を行うべきと考えるされています。(答申要旨)
そして、「地域の総合的な移動サービスの確保で出かけたくなるまちづくり」の検討が現在常任委員会示されています。敬老特別乗車証の対象となる高齢者(70 歳以上)の人口は、制度が設立された昭和 49 年には 6.8 万人でした。令和 7 年には 77.3 万人に達すると見込まれています。交付者数も平成 30 年度には 40.4 万人に達しており、令和 7 年には 45.2 万人になると推測されています。 また、データ分析では、敬老パスの利用状況は、交付率が区ごとに大きく異なっています。バス停や地下鉄駅の密度が低い区では、敬老パスの利用回数が低い傾向にもあります。
見えてきた課題として(敬老パスのデータ分析や本市の地域交通の現状等による)・介護保険給付費は年々増加し、フレイル状態にある高齢者の割合も増加している・外出頻度が低いほど要介護に移行する割合が高くなるが、高齢者の外出頻度は低下しており、フレイルリスクが高まり要介護者が増える恐れがある・高齢者の外出(交通)手段として地域交通(バス)の重要性は高い・市内には駅やバス停から離れた公共交通の空白地帯が点在・高齢者の外出を支える敬老パスは区ごとに交付率や利用回数に差があり、バス停や地下鉄駅の密度が低いほど利用が少ない傾向・敬老パスには外出促進や介護予防の効果があることが示唆されることから今後の検証が必要としています。
市民の誰もが移動しやすい環境の整備と、危機的状況にある地域交通の維持・充実を図るため、重層的に施策を展開する事。地域から多くの声を頂いている地域の総合的な移動サービスを実現する事。時代の変化を直視した、現在の課題と今後を見据えた議論が必要です。