DV(ドメスティックバイオレンス)加害者の変容めざす「加害者プログラム」

DV加害者の変容めざす「加害者プログラム」を実施するNPO法人の取材を公明新聞が行いました。地元神奈川区に所在するNPO法人「女性・人権支援センター ステップ」さんへの取材であり、取材に同行。以下公明新聞掲載記事となります。

内閣府は今年度から、加害者の考え方や行動の変容をめざす「加害者プログラム」の全国展開に向けて、実施する自治体への財政支援を開始した。民間団体が行うプログラムの様子を紹介するとともに、内閣府の調査研究事業に携わり、自らも京都府で男性加害者への支援を行う立命館大学の中村正特任教授に話を聞いた。


■“怒り”の原因と解消法学ぶ/横浜市NPOでは受講後、8割が関係修復

 「暴力につながる“怒り”は自ら選択した思考の結果。思考を切り替えることで、怒りや不安を消すことができる」

 平日の午後、横浜市にあるビルの一室で、NPO法人「女性・人権支援センター ステップ」の栗原加代美理事長がモニターに向かって語りかけていた。同法人が実施するDV加害者プログラムの一コマだ。

 受講者は原則として週1回、2時間のプログラムに1年間(計52回)参加する。費用は1回3000円。全てオンラインの開催で全国各地から、さまざまな職業の人が集まる。30~40歳代の男性が多く、DVが原因で配偶者や子どもが家を出てしまっているケースがほとんどだという。

 この日の受講者は13人で、うち3人は女性。心理学の「選択理論」を基に怒りの原因と解消法を学んだ後、受講者が近況や悩みを順番に話していく。ある男性が「別れた妻への嫉妬心が消えずに苦しい」と胸の内を吐露すると、離婚経験のある別の男性が「自分には何の落ち度もないと思っていたが、プログラムに参加するうちに、どれだけひどいことを繰り返してきたのかが分かった。今では妻が離れたのは自分のせいだと思っている」と心境の変化を語った。

 栗原理事長によると、13年間で約1200人が受講し、およそ8割はパートナーとの関係修復につながっているという。

■被害者の7割以上「別れていない」

 内閣府の調査では、配偶者から何らかの被害を受けた人のうち、「相手と別れた」のは、わずか16・2%。男女とも7割以上は被害を受けても別れていない【グラフ参照】。

 「DV被害を受けていったんは逃げても、家に戻れば同じことが繰り返される。被害者を救うには加害者に変わってもらうことが必要だ」と栗原理事長は強調する。

■公明、全国展開を後押し

 DV加害者プログラムを巡っては、内閣府が2020年度から3年間、一部地域で試行事業を行い、昨年5月に「実施のための留意事項」を策定。今年度から「性暴力・配偶者暴力被害者等支援交付金」を加害者プログラム事業にも使えるよう拡充した。

 国の負担率は4分の3で、交付上限は1民間団体当たり1000万円。今年度は横浜市のほか、群馬、神奈川、京都、宮崎の4府県に交付決定しており、自治体を通してNPO法人などを支援する。

 こうした動きを加速させようと、公明党は国への働き掛けを強めている。今年5月30日に岸田文雄首相に手渡した提言で加害者プログラムの「実施の促進」を求め、8月7日に党内閣部会が林芳正官房長官に行った政策提言でも「全国展開」を要望した。

 党ストーカー・DV・性暴力等対策推進プロジェクトチームの佐々木さやか座長(参院議員)は「加害者が暴力への依存を抜け出すことは、被害者はもちろん加害者にとっても大きな意義がある。党のネットワークで全国への普及を後押ししたい」と語っている。

■暴力の連鎖を断ち切る契機に/立命館大学産業社会学部 中村正特任教授

 私はDV防止法の制定前から、加害者プログラムを調査研究し、その必要性を訴えてきたが、ようやく国が予算を付けて推進する姿勢を示したことは評価したい。ここまで遅くなった背景には「被害者救済がまだ十分でないのに、なぜ加害者対策を先行させるのか」といった批判が根強かったことが挙げられる。

 ただ指摘しておきたいのは、今の加害者は、かつての被害者でもあることが多い点だ。男性を例に挙げると、父親に殴られたり、抑圧的な態度で育てられ、ゆがんだ男らしさ像を内面化しているケースが少なくない。こうした暴力の連鎖を、どこかで誰かが断ち切らない限り、悲惨な事件はなくならない。これは児童虐待の加害親にも通じる。

 欧米など諸外国では、裁判所がDV加害者に脱暴力プログラムの受講命令を出すが、日本には、そうした仕組みがない。プログラムを実施できる団体・人材の育成といった課題はあるが、将来的には、そうした「治療的司法」の導入をめざすべきだ。ぜひ公明党が合意形成をリードしてほしい。(公明新聞2024・8・21)

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