9月は、前立腺がん、悪性リンパ腫、子宮体がん、卵巣がん、小児がん、白血病、甲状腺がんの啓発月間となっています。
横浜市では、市民の10人のうち8人は身近な人ががんにり患しており、また、9割以上の市民が、がんをこわいと感じています。市民の皆様が安心して生活できる横浜市を目指し、検診等の充実をはじめとしたがん対策を加速化しています。
【横浜市のがん対策における新たな取組】
1) 子宮頸がん検診における新たな検査の導入 2) 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)検査への新たな助成 3) ブレスト・アウェアネス※の推進 4) 65 歳時点のがん検診を無料化に 5) 70 歳以上の方の精密検査を無料化に 6) さらに受けやすいがん検診に 7) 小児・AYA 世代(15~39 歳)向けの新たな取り組み
日本人の死亡原因の第1位はがんです。その正しい知識を学ぶことは、自分や家族の命を守ることにつながります。そこで厚生労働省の職域がん対策プロジェクト「がん対策推進企業アクション」主催のセミナーが8月27日に都内で開かれ、アクション議長を務める中川恵一・東京大学大学院医学系研究科特任教授が、「学校でのがん教育と大人へのがん教育」をテーマに講演したとして要旨が公明新聞に掲載をされていましたのでご紹介します。(公明新聞2024・9・11)
■情報の理解、活用進まぬ日本/高齢化に伴う患者増に対応を
学校でのがん教育が始まっていますが、大人世代には、あまり知られていません。子どもたちは授業でがんの知識を得ている一方、学ぶ機会がほとんどなかったために、がんのことをよく知らない大人はたくさんいるのです。
がん対策は、がんになる前に行うことが肝心です。一方、日本人はがんに限らず、健康に関する情報を入手して理解し、活用する「ヘルスリテラシー」に欠けると指摘されています。欧州の国々などとの比較調査では、国別のヘルスリテラシーの平均点が日本は非常に低い結果が出ています。このことが、がんへの対応の遅れにつながっているように思えてなりません。
本来であれば、その打開策に、がん教育がなるはずです。子どもだけでなく、大人もがんの知識を深めれば、日本全体で健康の意識啓発も進むでしょう。がんは人ごとではありません。日本人は男性の3人に2人が、女性は2人に1人が生涯のうちに、何らかのがんを発症しています。私も該当し、ぼうこうがんの経験者です。ほとんどのがんは一種の老化現象と言えるため、年齢を重ねるとともに、がんになる人の割合が増えます。年齢階級別のがんの罹患数を見ると、男性は50代半ばから急増する一方、女性は50代前半までは男性より多い特徴があります【グラフ参照】。これは女性特有のがんに起因し、子宮頸がんは30代前半、乳がんは40代後半に発症のピークがあるためです。
今や働く女性が増え、定年の延長により、長く働く人も増えています。がんの観点から言えば、働きながらがんを患う人が増える社会になっていることを意味します。
総人口に占める高齢者の割合が世界で最も高い日本は、世界一のがん大国です。世界でも類を見ないスピードで高齢化が進んだため、急増するがんに対して十分にキャッチアップ(追い付くこと)ができていない側面があります。特に教育がそうだと思います。
■わずかな知識と行動が重要に/主な原因、生活習慣やウイルス
私は40年間、がんの医者として約3万人のがん患者を診てきました。その中で多くの患者が降って湧いた不幸か、地震などの自然災害と同じように、がんを捉えていました。しかし、それは誤りです。発症の原因が明らかでなく、治療方法も確立されていない難病も多くある中で、がんはわずかな知識とそれに基づく行動によって、相当コントロールが可能です。
例えば、交通事故を避けるには安全運転が大切です。ところが、運悪く事故に巻き込まれる場合もあります。その時に命を救ってくれるのがシートベルトです。がんの場合も同じです。良い生活習慣が安全運転、がん検診による早期発見がシートベルトに当たります。日本人は、男性のがんの4割、女性のがんの3割弱が、喫煙、飲酒などの生活習慣や細菌などの感染が原因で起きています【グラフ参照】。従って、がんになるリスクを下げるには、禁煙が大切です。「百薬の長」と言われる酒も控える方が望ましいことも明らかになっています。特に飲むと赤くなる人が深酒すれば、食道がんなどのリスクが高まるため、注意が必要です。一方、感染型の主ながんには胃がん、肝臓がん、子宮頸がんが知られています。中でも子宮頸がんは近年、罹患率が増加する傾向にあります。発症原因のほぼ100%が性交渉に伴うヒトパピローマウイルス(HPV)の感染で、高確率で感染を予防するワクチンが開発されています。副反応の懸念から一時的に積極的な接種勧奨が差し控えられていましたが、2022年度から再開され、接種の機会を逃した世代には、来年3月末まで無料の「キャッチアップ接種」が実施されています。必要な3回接種の完了には6カ月かかるため、厚労省は今月末までの接種開始を呼び掛けています。
■がん教育受け生徒が親を感化/企業は従業員の啓発に努めて
がんは全体で見れば6割が治り、早期発見で9割以上が完治します。ところが、日本のがん検診受診率は先進国で最低レベルにとどまっています。日本では、がん教育を受ける機会がほとんどなかったため、当然なのかもしれません。現在、国ががん検診として推奨しているのは胃・肺・大腸・乳房・子宮頸の五つのがんに対するものです。市町村の住民検診で実施されており、無料か少額の自己負担で受けられます。
これは決して「安かろう悪かろう」ではありません。死亡リスクを下げるエビデンス(科学的根拠)があるため、健康増進法で規定され、公費を補助して行われているのです。こうした事実もほとんど知られていません。がんで命を落とさないためには、がんを知ることが大切です。私は08年から全国の100カ所以上の学校でがんの授業を行い、学校でのがん教育の必要性を国に訴えてきました。子どもたちにがんの正しい知識を身に付け、命の大切さを知ってほしいとの願いからです。
17年に中学校の学習指導要領にがん教育が盛り込まれて以降、翌18年には高校の学習指導要領にも明記され、学校でのがん教育が全国的に行われるようになりました。国は医師やがん経験者ら外部講師の活用を推奨し、外部講師を招く学校も徐々に増えています。私が中学生にがんの特別授業を行った自治体の一つ、香川県宇多津町では、がん教育を始めたことで町民のがん検診受診率が急上昇しました。がん教育を受けた生徒が親など保護者に検診の受診を勧めていたことが分かっています。
がん教育の効果の一つであり、今後、教育を受けた子どもが、大人になって検診を受診するかなど長期的な効果を検証したいと考えています。残された課題は、大人のがん教育です。子どもたちが一斉に学ぶ学校に似て、大人に一種の強制力が働く場所には職域があります。定年の延長などで、働くがん患者が増えるのは確実でがん教育は企業でも行われるべきでしょう。 厚労省委託事業のがん対策推進企業アクションでは、がんや企業の対策事例など、豊富な情報を提供しています。大人のがん教育の推進へ、従業員への啓発に活用してもらえたらと思います。
■公明が推進/全国の小中高で必修化 がん教育は、健康教育の一環として実施され、がんの正しい知識と、患者や家族への理解を深める。学びを通じて健康と命の大切さに気付き、主体的に考えられるようになることも目標とします。2011年に策定された「第2期がん対策推進基本計画」に、公明党の推進で「がんの教育・普及啓発」が盛り込まれたことで、学校でのがん教育のあり方の検討が動き出されました。
文部科学省は14年に有識者検討会を設置し、15年にがん教育の定義や目標をはじめ、がんの要因や予防、治療法などを含む具体的な内容などについて基本的な考え方をまとめました。公明党は国会や地方議会で学校でのがん教育の普及を積極的に後押し。16年には、がん教育の推進を盛り込んだ改正がん対策基本法を成立させました。その後、学習指導要領にがん教育が新たに位置付けられ、20年度から小学校で、21年度から中学校で、22年度からは高校でがん教育が必修化されました。
■がんは全体で見れば6割が治り、早期発見で9割以上が完治。横浜市では、全市会議員の提案により、がんの予防、早期発見や、適切な医療を受けられるようにすることはもちろん、がんになったとしても、患者やご家族が安心して生活が送れるよう、介護・福祉・教育・雇用等幅広い観点からがんへの取組を進めるため、「横浜市がん撲滅対策推進条例」が制定されました。この条例に基づき、毎年度の横浜市のがん対策に関する施策の実施状況を報告されています。介護・福祉・教育・雇用等幅広い観点からがんへの取組をさらに進めて参ります。