人口減少社会という大きな課題に向き合う中で、近年、人手不足を補いながら生産効率、事務効率を上げるための手段として、AI(Artificial Intelligence:人工知能)やRPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)といった先端技術が注目を集めており、地方自治体において、行政事務の効率化やサービス向上を目的に、AI等を活用した取組が広がっています
総務省の「自治体戦略 2040 構想研究会 」が、新たな自治体行政の基本的な考え方の1つとして、今後の労働力人口の減少に伴い、自治体の経営資源が制約される中、法令に基づく公共サービスを的確に実施するためには、AI等の技術を積極的に活用して、自動化・省力化を図り、より少ない職員で効率的に事務を処理する体制の構築が欠かせないと提言しています。(以下)
今後、自治体においては、労働力の厳しい供給制約を共通認識として、2040 年頃の姿からバックキャスティングに自らのあり方を捉え直し、将来の住民と自治体職員のために、現時点から、業務のあり方を変革していかなければならない。労働力制約への対処は、官民問わず、新たな発展のチャンスとなる。我が国が世界に先駆けてあらゆる分野で破壊的技術(AIやロボティクスなど)を導入していくならば、戦後の焼け野原からの最新の工場設備の投資が高度経済成長を生み出したように、新たな飛躍の絶好の機会となり得る。
とりわけ、これは自治体が新たな局面を切り拓く好機である。従来の半分の職員でも自治体として本来担うべき機能が発揮でき、量的にも質的にも困難さを増す課題を突破できるような仕組みを構築する必要がある。
そのような仕組みを構築するためには、全ての自治体で業務の自動化・省力化につながる破壊的技術(AIやロボティクスなど)を徹底的に使いこなす必要がある。AI・ロボティクスが処理できる事務作業は全てAI・ロボティクスによって自動処理することにより、職員は企画立案業務や住民への直接的なサービス提供など職員でなければできない業務に注力するスマート自治体へと転換する必要がある。
スマート自治体への転換は、自治体職員が本来の機能を発揮し、地域に必要とされる役割を果たす好機である。スマート自治体への転換に当たり、職員に求められる能力は変容する。高い専門性や企画調整能力、コミュニケーション能力が必要になることを踏まえ、組織に必要な人材を確保する観点から、長期的な視点で職員の能力開発や教育・訓練が求められる。
総務省では、本格的な人口減少社会となる 2040 年頃には、官民を問わず、労働力の供給制約に直面するため、従来の半分の職員でも自治体として本来担うべき機能が発揮できる仕組み、スマート自治体への転換が必要であるという考えのもと、AI・ロボティクスが処理できる事務作業は AI・ロボティクスによって自動処理するスマート自治体への転換を図るため、自治体行政の様々な分野で、団体間比較を行いつつ、AI・ロボティクス等を活用した標準的かつ効率的な業務プロセスを構築するプロジェクトを創設する方針 です。
横浜市では、平成 28年 12月の「官民データ活用推進基本法」の成立を受け、平成29 年3月には官民データの活用に関する条例としては全国の市町村で初めてとなる「横浜市官民データ活用推進基本条例」を制定しました。また、AI などの先端技術の進展により社会の多様化が進むなか、社会的課題の解決や新しい価値の創造に向け、これまで以上にデータ活用や公民連携の取組を効果的に行う場が必要という考えに基づき、これらを庁内横断的に検討・推進する場として、新たに「オープンイノベーション推進本部」を平成 29 年4月に設置しました。そして、平成 30 年5月に、官民データ活用の推進に関する施策や推進体制に関する基本的な事項を定めた「横浜市官民データ活用推進計画」を策定しました。その中の1つとして、効果的かつ効率的な市政運営に向け、データを重視した政策形成を推進するとともに、本市の強みである企業等との協働・共創の取組により、AI など先端技術やデータの積極的な活用を進めるとしています。(市会ジャーナル参照)
スマート自治体とは、人工知能(AI)など先端技術を駆使して事務の自動処理を進め、そのためのシステムも自治体間で標準化、共通化してムダな重複投資を避けることをめざす構想です。公共私の協力では、自治体(公)が医療・介護、子育て支援など全ての住民サービスを提供するのではなく、地域団体(共)と連携したり、また、乗り物や住居など個人所有の資産を他人に貸し出すシェアリングエコノミーの活用や民間企業(私)の進出によって実施する体制をめざします。
そのためには、自治体の指導力で地域や民間団体と合意を作り、新たな地方行政の姿を作る必要があります。この作業は事務の自動化とは次元の異なるものであり、知恵と実行力が要求される“もう一つのスマート化”と言えよう。「地方自治の本旨」は自治体の自主性を守る団体自治と、自治体の意思は住民が決める住民自治の二つの原則からなっています。スマート自治体には住民と共に歩む力があるかどうかという視点も、より問われていきます。